【安保法制賛成の意見も聞いて下さい】(03) 反対論には致命的な欠陥がある

僕が反対派の人々に問いたいのは、「この法案を潰して、メデタシメデタシの状態になるのか?」ということです。自衛隊は、日本人の生命と財産と幸福を守る為の組織です。隊員の能力は高く、使命感に溢れ、身を守る為の装備を有し、訓練されている部隊です。この部隊をこれまでは活用できなかった為に、他の人々や国の財政に大きな負担が不当に皺寄せされてきたという事実を、どう考えているのでしょうか? これに対しても、反対派の人々は何も答えてくれません。3つの不当な皺寄せについて書きます。

①丸腰の公務員と民間人がリスクを負っている
日本では自衛隊が出られない為、丸腰の公務員や民間人が海外の危機の最前線に立たされています。イラクでテロリストに殺された奥克彦大使は、僕のかけがえのない友人でありパートナーでした。カンボジアでは、国連ボランティアの中田厚仁さんがゲリラに殺されました。中田さんは輝く目をした青年で、僕に「日本政府が動かないので私が代わりに来ているのです」とカンボジアで言っていました。アフガニスタンでも、『ペシャワル会』の伊藤さんが襲われて亡くなりました。アフガニスタンに働く各国の援助関係者や民間人専門家は、『PRT』という制度の下で其々の本国の部隊の警護を受けていましたが、日本からは自衛隊や警察等の実力部隊が来ることはありませんでした。自衛隊が出られない為に、日本の公務員や民間人がリスクを負担して犠牲になっている。この状態のままでいればメデタシメデタシなのでしょうか? 反対論を主導する有名な憲法学者が、「外務官僚には全員自衛隊入隊を義務付けて、危険地域を体験させよ」とマスコミで主張していました。「そうすれば、自衛隊を危険地域に送る法律を作ることなどできなくなるだろう」と。「現実を全く知らない議論だな」と思いました。実際には、自衛隊ではなく丸腰の公務員が危険地域に派遣されているのです。それなら、「世界中の嘲笑を浴びてでも、危険地域にある日本の大使館は全て撤収しろ」と主張しなければ辻褄が合いません。

僕は、2ヵ月前にイラクのバクダッドにある日本大使館を訪れました。24名の外交官が大使館に泊まり込み、インスタント食品で懸命に頑張っていました。2名の大使館員が殺されましたが、怯むことなくイラクの復興と日本のプレゼンスの為に留まっているのです。“危険地域”ですから、自衛隊は1人も派遣されていません。自衛隊の中から1名の犠牲者も出さないような備えをするのは当然のことですが、敢えて言いますが公務員にリスクはつきものなのです。勇敢な消防士を見て下さい。火の中に飛び込むという過酷な職業ですから、毎年6~7名の殉職者が出ています。多くの消防士が殉職しているのに、「消防士は火災現場に近づくな」と言う人はいません。同じ公務員なのにどうしてですか? 僕は小泉内閣の下で、防弾チョッキをつけて奥大使と一緒にイラク復興の為に走り回ってきました。(01)でご紹介した宮家さんは、内戦が続く中でイラクに駐在してきました。僕も宮家さんも、リスクの中で仕事をしてきました。公務員は、覚悟と使命感を持って任務を遂行しているのです。ですから、「自衛隊員を危険地域に近づけるな」という議論は、強い使命感を持っている自衛隊員に失礼だと思うのです。




②いつまで外国の善意とリスクに縋るのか?
自衛隊が大きな制約を受けている為、これまでは外国の人々が日本人の生命と財産を守ってきました。いつまでこれを続けるのでしょうか? 1985年にイランイラク戦争が激化し、テヘランに在住していた日本人215名を救出しなければならなくなりました。しかし、政府は自衛隊機を派遣できず、民間航空会社も「自衛隊が行かないところへ、何故俺たちが行かなきゃいけないのか?」と飛んでくれませんでした。それを助けてくれたのはトルコ政府です。彼らはテヘランのトルコ人を救出する為に、2機の民間航空機を飛ばしましたが、その内の1機を丸々日本人の脱出の為に提供してくれたのです。そのトルコ航空機で脱出する筈だったトルコの人たちは、陸路で脱出したのです。その後、自衛隊は“日本人の輸送”に限ってできるようになりましたが、トルコがしてくれたように外国人を救出することはダメでした。今回、それが部分的に可能になります。2004年4月、イラクのバスラで原油を積み込んでいた日本の30万トンタンカー『高鈴』目掛けて、自爆テロのボートが突入してきました。この時、『高鈴』を身を挺して守ってくれたのは、アメリカ海軍の軍人2名と沿岸警備隊員1名でした。彼らは日本のタンカーを守って死亡し、アメリカには幼い子供たちが残されました。日本では報道もされませんでした。2004年にイラクのサマワに派遣された陸上自衛隊は、野党の反対で身を守る十分な武器を携行していけず、結局、外国の軍隊に守ってもらうことになりました。警護に当たったオランダ軍は当然、大きな疑問を感じました。「自分たちはイラクの市民を守りに来たのに、何故外国の軍隊を守らなければならないんだ?」。当然の疑問でしょう。反対する人々は「この法律は外国のリスクを日本に肩代わりさせるものだ」と主張しますが、現実は逆です。日本人を保護するリスクを外国が肩代わりして負ってきたのです。 この状況が続けばメデタシメデタシだったのでしょうか?

③財政が悲鳴をあげている
もう1つ、こういう点を考えて下さい。1990年の湾岸戦争の際に、外務省は前線から遠く離れたサウジアラビアの首都・リアドに自衛隊の医師のチームを派遣しようとしました。派遣できていれば、日本として国連安保理決議678が加盟国に要請した平和回復の為の貢献ともなり、国際的にも正当に評価されたでしょう。しかし法制局は、「自衛隊の医師が多国籍軍の兵士を治療すれば、傷が癒えた兵士はまた前線に戻るから、集団的自衛権の発動に当たる」として反対しました。不思議な議論です。そんなことを言えば、国連決議に基づいて行動する外国人兵士に食料を提供して体力をつけるのも憲法違反ということになってしまいます。法制局の強い反対に遭った外務省は、民間の医師団の派遣を呼びかけました。結局、上手くいきませんでした。同じ頃、アメリカから「海上自衛隊の輸送艦を出してくれ」という要請がありましたが、これも法制局の反対で駄目。運輸省が日本中を探してくれて、漸く民間の船を1隻だけチャーターしました。何れのケースも“自衛隊の代わりに民間人”という構図でしたが、政府なら“憲法違反”と言われていることを民間にやらせようとするのですから、土台無理な話でした。

すみません、脱線しました。僕が言いたかったのは、その点ではありません。防衛医官のチームや輸送艦を派遣できなかった日本に対しては、国際的な非難が集まりました。そして日本は結局、金銭解決に頼ることになりました。130億ドル(当時のレートで2兆円)という巨費です。日本人全員が2万円を、税金の形で払うことになりました。これがメデタシメデタシだったのでしょうか? アフガニスタンのテロ対策の時も同じような話がありました。詳述しませんが5000億円。非現実的な憲法解釈のおかげで、日本の財政にこれだけの実害が生じていることについての議論は全く聞かれません。「この法律は日本を他国の戦争に参加させるものだ」という議論が溢れていますが、どうしてそういう理屈になるのか、僕にはさっぱりわかりません。“集団的自衛権の部分的行使”と言ったって、凡そ実際には使えないような厳しい制約がついていますし、仮令それを発動するような事態(例えば朝鮮半島が戦乱の地となり、日本の安全が直接脅かされる等)になっても、その場合ですら日本が使える集団的自衛権は、各国に比べればずっと狭い範囲のものです。いくら日本の同盟国であるアメリカが日本を必要としている場合でも、自衛隊が集団的自衛権を使って動けるのは、それが日本の“存立危機”に繋がる場合に限られます。況してや、「この法律が徴兵制に繋がる」といったキャンペーンに至っては首を捻るばかりです。これまで書きました通り、日本はこれまで丸腰の公務員や、民間人や、ボランティアや、外国の軍隊の善意と犠牲の上に日本人の生命を守り、財産を保全してきました。いつまでも許されることではありません。以上、誤解を恐れずに率直な言葉で僕の意見を書きました。これを読んでくれた人々が今一度、こうした側面について考えてくれるきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。


岡本行夫(おかもと・ゆきお) 外交評論家・マサチューセッツ工科大学シニアフェロー。1945年、神奈川県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、外務省に入省。1991年退官。同年に『岡本アソシエイツ』設立、代表取締役に就任し現在に至る。橋本内閣で1996~1998年総理大臣補佐官(沖縄担当)、小泉内閣で2001年9月より内閣官房参与、2003年4月~2004年3月まで総理大臣補佐官(イラク問題担当)を歴任。立命館大学客員教授。東北大学特任教授。東北漁業再開支援基金・希望の烽火代表理事。


キャプチャ  2015年9月28日付掲載


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