【「安倍首相は現実主義者だ」・古谷経衝氏に聞く】(上) なぜ安倍政権の支持率は高いのか?

特定秘密保護法や安保法制等、国論が分かれる政策を進めながら、底堅い支持率を維持している第2次安倍政権。ネット右翼等に詳しい著述家の古谷経衡氏に、安倍首相の実像や日本の大衆について持論を語ってもらった。 (聞き手/川本裕司)

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――安倍晋三政権になってから3年余り、内閣支持率が概ね40%を超えて安定しています。理由はどこにあるのでしょうか?
「安保法制が成立した昨年秋に支持率が下がりましたが、また戻りました。閣僚の失言等で少し下がることがあっても、誤差の範囲内です。理由は、自民党の支持層が変わってきたからではないでしょうか。1990年代までは土建・農林水産・運送・郵便といった職能団体に支えられてきたのですが、2000年代以降は大都市部に住む、それまでの職能団体とは無関係の無党派的中産階級から支持を集めるようになっています」
「例えばそれは、構造改革を訴えた大阪市の橋下徹前市長が好きなような、貧困とは遠い層です。自民党は小泉内閣を経て、明らかに職能団体に依存した地方型の政党から、職能団体とは無縁の都市型の政党になったと言えます。小泉元首相は、自民党の有力な集票団体だった特定郵便局長会(全特)を切り捨てても衆院選で大勝しました。職能団体を通じた投票行動は、戦後日本に特有の“職能を通じた民主主義”でしたが、その前提を支える終身雇用が崩れ、非正規雇用も増大した為に、職能団体の権勢が低下し、そういった団体を充てにする必要性も低下したのです」
「基本的に、この路線を第2次安倍政権も継承していますので、1990年代以前の自民党では考えられないような環太平洋経済連携協定(TPP)交渉等も平然と進めます。農協という職能団体からの票が離れたとしても、自民党は大都市部の無党派・中産階級から支持されると確信があるので、こういった政策に出る訳です。“打って出る攻めの政策”“成長戦略”“第三の矢”等、所謂“既得権”を持つとされる従来の職能団体からは嫌われますが、“改革”を是とする都市部の無党派にはウケます」

――支持基盤が変わってきたという指摘ですが、安倍政権の政策の評価はどうでしょうか?
「株価が民主党政権時代よりも遥かに高くなっているのは客観的な事実で、失業率も改善されています。これは、素直に評価してよいと思います。安倍政権の支持層の中核である都市部の中産階級は、所謂“格差社会”や“長期デフレ”でそれほどダメージを受けておらず、消費税が上がっても『自分で頑張ればいい』という自力救済型のポジティブシンキングの人々が多いのでしょう」
「何故なら彼らは、景気が良かった時代に企業内で地位を築いたり、今よりもずっと経済環境の良かった時代に起業して成功している人々だからです。よって、安倍政権の支持層は、若者ではなく30代半ばから40代以上~70代くらいまでの中高年層・大都市部在住・中産階級が多い。この傾向は、ネット保守(ネット右翼)とも言われる人々の類型とも一部重なります。深刻なデフレ不況の影響を受けている若年層は、学生団体“SEALDs”に代表されるように、決して安倍政権に親和的ではないのがその証拠の1つでしょう」
「貧困や不況とは縁遠い、都市部の裕福な“プチ富裕層”が安倍政権支持者の中枢です。私自身、安倍首相を概ね支持しておりますが、若い頃から『独力で仕事をやってきた』という自負があります。だから、安倍首相や自民党支持者の多くが生活保護や社会的弱者への再分配には厳しい視線を向けます。『自分たちは頑張ってきたのに、国家や社会に甘えるとは何事か』という理屈です。実際には時代状況・運・親の資産がそうさせているだけなのに、それが“自分の実力”と思っている人も多いことでしょう。貧困や格差から遠いので、そういう発想になります。逆に言えば、“格差社会”のある種の“勝ち組”が安倍首相の支持層ということもできます」

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ジャンル : 政治・経済

あなたが口にする「将来世代のため」という言葉、本心ですか?――日本の未来を考える提言

我が子や孫が生きる将来の日本の姿はどうあるべきか――。5年前の東日本大震災と福島第1原発事故、長引く景気の停滞、或いは国際情勢の不透明化を経験する中で、多くの人々の間でそうしたテーマの議論が喧しくなっている。しかし、その議論は往々にして、次世代への価値観や贖罪意識の“押し付け”となってしまうこともあるのではないか。国家や社会生活の10年後・20年後を考える上で忘れてはいけない姿勢とは何か、2人の識者へのインタビューと共に考えたい。

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■“ベスト”の道を要求するより“ベター”を選ぶのが人間の賢明さ  作家・曽野綾子氏
最近、私が不思議に思うのは、世間を見ていれば誰にでもわかるようなことを、“頭のいい人”が認めないことです。一例を挙げれば、5年前の東日本大震災以来、「安心して暮らしたい」と口にする人が目立つようになったことですね。政治家も、教師も、NHKのアナウンサーも、家庭のお母さんも、口を揃えてそう言うんです。皆、嘘吐きね(笑)。“安心して暮らせる”ことだけはないんですよ。次に大地震はいつやって来るかわからない。新たな感染症が大流行するかもしれない。お父さんの会社が来月に潰れるかもしれないのにね。“安心して暮らせる”人生なんてある訳ないことだけは、はっきりしています。そうしたアクシデントが起きないことは理想です。しかし、この世のあらゆるものに事故やエラー(失策)が起こり得ることも納得しなければならない現実なのです。自動車が事故を起こすことを知りつつ、誰も「自動車を廃止せよ」とは言いません。自動車は人を殺す凶器であると同時に、救急車として人命を救う手段でもある。そうした二面性があることを忘れては、大人の議論はできません。多分、人生には“ベスト(最良)”という状態は滅多になく、“ベター(ややマシ)”を選択して生きる他ないんでしょうね。勿論、不安な状態より、安心できる状態がいいに決まっています。でも、この世の出来事は“単衣”ではなく“袷”なんです。トーマス・アクィナスが「全て存在するものは、良きものである」という言葉を残していますが、“悪の要素の無い善”や“善の素質の無い悪”は無いのです。ところが、日本ではそのような“悪=望まざることや理想と異なること”に全く意義を認めない空気を感じますね。原発側が周辺住民に「事故が起きた時の為に避難訓練をしましょう」と言えば、「そんな危ない発電所を作るな」と抗議が来る。それで、発電所側も「原発は絶対に大丈夫です」と言わざるを得なかったそうですね。どちら側も現実を直視しないで嘘を吐くのは、賢明ではないように思います。原発事故は、訓練さえすれば人命も殆ど救えるものらしいですから。将来的に原発を避けることには私も賛成ですが、「100%安全でないから直ぐに廃止せよ」というのは、経済性を考えた大人の議論ではないでしょう。存在し得ない“100%の安全”を求めるのは愚かなことですから、原発を止めた場合の地球温暖化の問題と双方を天評にかけて、“少し良いほう”を採ることにしないといけないと思いますね。

私の周りには、80歳を過ぎても未だアフリカの奥地で明るく働いている修道女たちがいます。温かいお湯さえ出ず、水浴さえままならないという土地で、電気が無い土地もあります。私は、そうした国々に数十年に亘って足を運びました。そんな経験からわかったのは、「電気が通っていないのに民主主義体制が機能している土地は、世界に1ヵ所も無い」ということです。電気の供給は、国民の民意を自由に言える民主主義の基本になっているんです。日本がそうした場所でないのは“幸せ”なことですが、それが永遠に保証された日本人の権利じゃありません。「幸せなことは永久に続く」と子供が思い込むのは、「不幸を教えない」という教育上の怠りを犯しています。ところが、不幸を体験している筈の大人でさえも、同じように“永遠の幸せ”を信じ、或いは要求する人がいるそうです。それは、やはり現実から目を背けているからでしょう。しかも、そうした人が往々にして、「自分たちは子供や孫の世代に幸せを残さなければならない」というような思い上がった言葉を口にすることもあります。良い響きだと思いますが、理想の世界のイメージを将来に引き継ぐと同時に、現実の世界の不幸も教訓として後世に残したほうが役に立ちます。尤も、私は“将来の為”なんてことはあまり考えません。冷たいんでしょうね。自分が生きる世界は自分で作るしかないのですから、次の世代が自分でベターな選択をしていく他ないとも考えているんです。それに、年寄りはそんなことを言う前に、自分の心と体を鍛えて、程々に働いて、気楽に他人に面倒を見てもらうのが当たり前だと思わないほうがいいんですね。いつまでも社長の地位にしがみ付く経営者が醜いように、次世代に価値観を押し付け、世話になりながら生に執着するのも私は好きじゃないんです。

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会員は本当に増えているのか? 本尊や教義はもう不要なのか? 高齢社会に対応して1人暮らしの人々を取り込む創価学会の有効活動の実態

20160420 02
宗教の興隆は布教活動が原点である。布教を疎かにした教団には、未来の展望は望めない。衰退の一途である。その点、『創価学会』は戦後、安穏としていた伝統仏教を横目にしながら、怒涛の布教活動を展開してきた。それも、あまりの激しさに度々社会問題化し、日蓮系に属する今日の『冨士大石寺顕正会』に見るような新聞社会面を賑わすほどの“折伏”ぶりだった。だが表面的には、創価学会からそうした過激な布教活動が消えて久しい。まるで巨象から牙が抜け落ちたような鹽らしい教団になったかに見える。さらには一昨年の10月、今度は“本尊”というその巨象を動かしていた心臓部まで取り除いてしまったのである。取り除いても、強固な新たな心臓を移植する方法もある。だが、血液を末梢まで休むこと無く送る巨大組織の心臓移植は、容易なことではない。若し下手をすれば、心筋梗塞を起こしかねないからだ。これから先、公称827万世帯の巨大組織をどのようにして誇示し、宗教団体としてどんな進路を選択するのか。まさに今、創価学会は創始以来の岐路に立たされている。東京の下町の集合住宅に住む主婦のAさん(70代)は、創価学会員ではない。寧ろ、同会には批判的である。これまで、公明党には1票も投じたことがなかった。極普通の主婦であるAさんが一般市民のような目で、創価学会の方向性を予見するような、こんなことを言う。「私の近隣に住む住民と創価学会員の関係を見ていますと、『なるほど』と思うことがあります。私が住む住宅の全戸数の内、約半数がパートナーに先立たれているとか、子供とも同居していない独り身の孤独な生活を送っています。そこに、同じ集合住宅に住む顔見知りの創価学会 員が月に1~2度訪ねて来ます。毎日の訪問ではありませんから、そう煩わしくないし、布教する訳ではありません。ただ、『聖教新聞を置いていくから読んでね。テレビ番組欄もあるから』。そんな単純な会話だけです。これが選挙近くになりますと、訪問の回数も増えますが、政治問題等の余計なことを言わないで、ただ、『今度の選挙で公明党をお願いします』だけ。こんな学会の活動を見聞していますと、見方によっては年寄りの安否を気遣う社会福祉活動に似ていますし、日常、身内の家族がやらないことを代わってやっているようなものですね。誰も訪ねて来ない孤独な老人にとっては、顔見知りの訪問は危険性が無いし、寧ろ友人が訪ねて来るような歓待の気持ちが強いのでしょうか。こうなると、たとえ学会に入会しなくても、批判的な態度だけは見せなくなりますよね」

似たような意見を持つ、もう1人の声を紹介してみよう。東京都郊外に住むBさん(50代)は、大手企業に勤務するエリートサラリーマンである。学生時代から大が付くほどの創価学会嫌いだったが、已む無く学会と深く関わるようになってしまう。きっかけは、年老いた母親との同居だった。長年、地方の生家に1人で住んでいた母親が、いつの間にか創価学会に入会していたらしい。息子の住まいにトラックで引っ越ししてきた時、同時に、同会から受けた本尊を安置する仏壇も運び入れたのである。当初、無宗教のBさんは驚いた。だが、同居したばかりで近所の手前、親子喧嘩も大人気ない。母親に、「どんな宗教を信じようとも反対はしない。ただ、教団にお金は出さないことと、学会員を自宅に連れて来ないことは守って下さい」等、幾つかの条件を出し、母親の部屋に仏壇を置くことを認め、学会信仰を許した。Bさん夫婦は共稼ぎである。昼は、自宅に母親が1人になる。少し不安だったが、それが少しずつ解消されるようになった。母親は詳しいことは言わないが、創価学会組織には1人ひとりの氏名・住所・年齡・電話番号・組織役職名・家族構成等が明記された“会員カード”が存在し、コンピューター化されている。その為、会員が都心部や、逆に地方に引っ越し、転勤した場合でも組織を通じて、新住所に地域の幹部が訪ねて来るという水も漏らさぬ体制を形成している。Bさんの母親も、近所に住む学会員から連絡を受けて地域組織の一員になり、直ぐ親しくなった。昼に開かれる集会(学会では“会合”と言う)によく誘われて参加するようになった。集会が無くても学会員は、よく自宅を訪ねて来ているようだ。白昼、暇を持て余していた孤独な老人に、茶飲み友達ができたのである。受給している年金をどのように使っているかはわからないし、詮索もしない。だがBさんは、「まぁ、私たち夫婦に代わって学会が無料で子守役を務めてくれるというか、その点、正直、都合がいいですね。ただ、選挙日等、車で迎えに来てくれることに少々抵抗感もあります。でも、このくらいはしょうがないかなと思っています」と語る。全国の地域毎に行っている創価学会のこうした組織活動を“有効活動”という。しかし、学会に入会するといった直接的な成果に結び付くことは殆ど無い。だが、地域住民との“友好”を深めることによって創価学会への理解を得て、軈て『聖教新聞』の定期購読者が増え、公明党への一票にも結び付くことになる。“社会福祉”的な、柔軟な布教活動ということだろうか。

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【政治の現場・野党融合】(07) 統一名簿、渋る岡田氏

20160418 12
今月7日夜、永田町の日本料理店で開かれた民進・共産・社民・生活の野党4党の幹事長・書記局長会談を終えた面々は、近くのカラオケ店での2次会へと雪崩れ込んだ。民進党の枝野幸男幹事長が「どんなに負けてても今度は勝ちにいこう」と人気アイドル『AKB48』の『チャンスの順番』を披露すれば、日本共産党の山下芳生書記局長と民進党の今井雅人幹事長代理が肩を組んで熱唱する場面もあった。野党4党は年明け以降、幹部同士の会食を重ねて信頼関係を育んできた。夏の参院選での“自民1強打破”を旗印に、各選挙区で民進・共産両党の融合が進む一方、比例選では社民・生活両党が民進党との接近を図っている。だが、温度差も垣間見える。先月4日、生活の党の小沢一郎共同代表は、国会近くの一室に社民党の吉田忠智党首と又市征治幹事長を招き、民主党(当時)への不満を爆発させた。「参院選は“オリーブの木”でやるべきだ。岡田代表にもやれと言ったんだが、どうのこうの言ってやらないんだ」。この2日前、小沢氏は興石東副議長(参議院)の仲立ちで、北青山の日本料理店で岡田氏に直談判したが、色好い返事は得られなかった。『オリーブの木』構想は、複数の野党が比例代表の統一名簿を作って参院選を戦うもので、小沢氏の長年の持論だ。事実上の同一政党となる為、基本政策で開きが大きい日本共産党以外が参加する形を描く。政権批判の受け皿を一本化することで、相乗効果が期待できるとされる。参院選を“党存亡をかけた戦い”と位置付ける社民党も、統一名簿に前向きだ。吉田氏と福島瑞穂前党首の2人を比例選候補として擁立するが、党勢低迷で「1人を当選させるのも難しい」との見方が強い。吉田氏は今月7日、国会内で居合わせた興石氏に「先生からも背中を押して下さい」と縋ったが、岡田氏は「民進党の名前を浸透させたい」と難色を示したままだ。

統一名簿構想を前進させようと、小沢氏らとは別に、無所属の亀井静香議員(衆議院)も動き始めた。民進党が結党した先月27日夜、亀井氏は同党に合流した旧維新の党代表の松野頼久氏らと会い、『民進・社民・生活の大連合“さくらの木”で統一名簿』と題した資料を示した。投票率60%程度なら、統一名簿で得票数2000万票以上、比例選で20議席を獲得…と試算していた。2013年参議院比例選で民主・維新・社民・生活各党が獲得した計14議席を上回る数字だ。亀井氏は、今月8日に国会内で統一名簿作成に向けた会合を開く段取りまで決め、仲間に「40人は参加する。いや、50人かもしれんぞ」等と興奮気味に語っていた。しかし、ここでも岡田氏は「待った」をかけた。構想に賛同していた民進党議員に直接電話し、会合の延期を命じたのだ。統一名簿は少数政党に有利な一方で、一定の議席獲得が見込める政党には恩恵が少ないことが背景にある。会合中止を知った小沢氏は、「民進党には腹が据わった奴がいないんだよなぁ。亀ちゃん(亀井氏)もがっかりしているだろうなぁ」と周囲に漏らしたが、「さくらの木構想について、自分には何の説明も無い」とも語り、主導権争いの側面も窺わせた。読売新聞が今月1~3日に行った全国世論調査では、民進党に「期待する」は31%に留まり、「期待しない」は60%に上った。単独で自民党に勝つ力は無く、「野党が1つに纏まり、与党側の敵失を待つ態勢を整える必要がある」(べテラン議員)との声は民進党内にも強い。“7月10日投開票”が有力視される参院選まで100日を切ったが、野党勢力は試行錯誤を続けている。

■同日選の場合は調整が困難に
統一名簿構想は、1996年にイタリアの中道左派連合『オリーブの木』が採用し、初の左派政権の誕生に繋がった。少数政党が個別に戦うよりも得票が上積みされ、多くの議席を得られる可能性がある。公職選挙法は、政党以外の政治団体も一定の条件を満たせば、比例選での候補擁立が可能としており、複数政党が新たな政治団体を作ることが想定される。ただ、衆参同日選になると、衆議院比例選は全国11ブロックに分かれ、小選挙区との重複立候補が認められる等と複雑な為、各党の調整が困難になる。国内では1983年の参院選で、新自由クラブと社会民主連合が実施したが、1議席を獲得するに留まった。 =おわり

               ◇

志磨力・藤原健作・小川洋輔・小田倉陽平・平田舞が担当しました。


≡読売新聞 2016年4月9日付掲載≡

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【政治の現場・野党融合】(06) “共産色”隠す政治団体

20160418 11
「♪縦の糸はあなた 横の糸は私 織りなす布は いつか誰かを暖めうるかもしれない」――。中島みゆきのヒット曲『糸』のフレーズだ。最近は結婚式での定番曲にもなっている。この替え歌を、高知県の民進・共産両党幹部は、カラオケでこんな風に歌っている。「♪縦の糸は民進 横の糸は共産」。両党幹部は、未明まで酒を酌み交わす仲だ。高知は今回の参院選から合区され、“徳島・高知選挙区”となる。民進・共産両党等は、民進主導で選んだ新人の野党統一候補・大西聡氏を擁立する。大西氏の支援は、両党ができるだけ表に出ない形で行われることになる。先月20日夕、高知市内の日本料理店に民進・共産両党の県幹部と、市民団体『高知憲法アクション』の中心メンバーで、日本共産党と繋がりの深い県労連執行委員長の田口朝光氏が顔を揃えた。田口氏は席上、「無党派層に訴える為、新しい政治団体を作らないか。政党や市民グループの足し算ではなく、化学反応を起こせる組織が必要だ」と述べ、野党・市民グループ・労組等で作る政治団体の旗揚げを提案した。国政レベルの選挙協力で、政治団体の設立にまで踏み込む例は珍しい。民進党にとっては、「政治団体を作れば日本共産党色が薄まる」という計算も働いた。民進の県幹部は「具体化しよう」と賛同した。政治団体は近く設立される。高知の政界では、日本共産党が民進党を上回る力を付けつつある。2013年の参院比例選、2014年の衆院比例選での県内得票数は、共産が民主(当時)を上回った。

日本共産党は、党員1万人以上の東京・大阪・京都・北海道・神奈川・埼玉・愛知・兵庫・福岡・千葉・長野の11の地方組織を“大県”と呼び、意向を重視している。高知は大県でこそないが、一目置かれる存在だ。自民党も強く、日本共産党にも押され気味の民進党県連内には、「参院選で共産と選挙協力をしたら、呑み込まれてしまうのではないか」との警戒感もあったが、大西氏の当選を目指すには共産票が頼みの綱で、背に腹は代えられない。野党や労組が政治団体を作り、与党に対抗する戦術は、2014年の沖縄県知事選が参考になっている。沖縄県の翁長雄志知事は、日本共産党を含む野党・労組・経済界等で作る政治団体を発足させ、無党派層の支持も得て当選した。日本共産党は今、県政与党となった。日本共産党中央委員会は2014年の知事選後、党幹部を沖縄に派遣し、翁長氏の勝因等を分折した。「選挙で政治団体に組み込まれれば、党の存在感は一時的に低下するが、勝てば与党入りでき、その後、党勢拡大に繋げることができる」という結論に至った。参院選沖縄選挙区でも、日本共産党を含む野党は、翁長氏の支援団体の枠組みを生かし、野党統一候補として宜野湾市の元市長・伊波洋一氏を擁立する。沖縄知事選での“成功例”は全国の参院選でも通用するのか。各地で候補者を取り下げ、統一候補を支援する為に政治団体も設立する。無党派層を意識する日本共産党は、取り敢えず自らのカラーを薄めることを厭わない。


≡読売新聞 2016年4月7日付掲載≡




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【政治の現場・野党融合】(05) 共産秋波、戸惑う連合

20160418 09
民進党と日本共産党の接近は、民進党の支持団体『連合』を混乱させている。春の肥後路を走る蒸気機関車を目当てに、観光客が集まる熊本県人吉市。同市内のJR人吉駅近くで今月1日、参院選熊本選挙区から出馬する無所属新人・阿部広美氏の支援集会が開かれた。連合熊本の顧問弁護士である阿部氏を支援する為、日本共産党は昨年12月、候補予定者を取り下げた。阿部氏は今回の参院選で、民進・共産等が推薦する全国初の“野党統一候補”だ。集会には民進党県連・日本共産党県委員会の幹部も来ていたが、司会の連合熊本幹部は聴衆に「政党の旗やプラカードは掲げません。政党の挨拶は控えます」と説明した。「民進党を登壇させれば、日本共産党も登壇させなければならない。しかし、日本共産党との連携はアピールしたくない」という連合の都合だった。結局、両党の県幹部は聴衆に紛れ、発言する機会は無かった。連合は1989年、旧社会党系労組の『総評』と、旧民社党系の『同盟』の流れを汲む民間労組が統一して誕生した。政治活動では“非自民・非共産”を掲げた。連合に反発した日本共産党と関係の深い組合等は、『全国労働組合総連合(全労連)』を結成。規模の大きい連合は労組の世界で“主流派”となり、日本共産党や全労連を敵視した。長く敵対関係にあった日本共産党が連合に秋波を送るきっかけとなったのは、昨年9月、志位委員長が安全保障関連法の廃止を主眼とする『国民連合政府』構想を発表し、民主党(当時)の岡田代表に共闘を呼びかけたことだ。

20160418 10
志位・岡田会談後、日本共産党の各都道府県委員会は連合の地方組織に対して、「参院選に向けて懇談したい」等と連携を働きかけた。連合本部には、地方組織から「日本共産党にどう対処すればいいのか」と戸惑いの声が相次いで寄せられた。連合は昨年10月、「日本共産党のアプローチに門戸を開く必要はない」との通知を地方組織に出した。“寄り合い所帯”は民進党に限った話ではなく、連合もまた、憲法・原発・安全保障等の政策を巡って対立を抱えている。特に、護憲を掲げる自治労等といった官公労系の労組は比較的、日本共産党に政策が近いとされる。連合内では、「万が一、官公労が日本共産党に引きずられるようなことになったら、分裂の危機に直面しかねない」(幹部)という声もある。参院選青森選挙区でも、日本共産党が候補を取り下げ、民進党の元衆議院議員・田名部匡代氏が統一候補となった。使用済み核燃料の再処理工場や中間貯蔵施設がある青森県では、原子力産業が地域の雇用を支えている。原発を推進する立場の連合の有力団体『電力総連』にとって、“反原発”を掲げる日本共産党との連携は「あってはならないこと」(電力総連幹部)だ。青森県電力総連の長嶺渉会長は先月中旬、連合青森の内村隆志会長に電話で「日本共産党と文書を交わすようなことはしないでほしい。日本共産党と一緒に活動はできない。下手なことをすると、参院選で戦えなくなる」と語り、牽制した。連合青森はその後、「日本共産党と街頭活動は一緒にやらない」との方針を打ち出した。参院選は、連合にとって日本共産党からの組織防衛の戦いでもある。


≡読売新聞 2016年4月6日付掲載≡




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【政治の現場・野党融合】(04) 民進党保守系、渋々の沈黙

20160418 08
今月3日午後、京都市内。衆議院京都3区補選(24日投開票)に民進党から出馬する泉健太氏の事務所開きには、前原誠司氏ら地元選出の国会議員や『連合』関係者らが顔を揃えた。自民党が候補擁立を見送る中、民進・共産両党の選挙協力が注目されたが、事務所開きの会場に日本共産党関係者の姿は無かった。民進党は参院選に向け、野党間の候補者調整を進める。衆議院北海道5区補選(同)では、日本共産党が独自候補を取り下げ、“野党統一候補”が実現した。ところが、京都では民進党側が協力を拒んだ。日本共産党は中央での野党共闘を踏まえ、自主投票とした。“日本共産党の牙城”とされる京都では、旧民主・共産両党が激しく凌ぎを削ってきた。京都市議会の日本共産党会派は18人で、民主党会派(7人)を大きく上回り、自民党会派(20人)に次ぐ第2勢力だ。前原氏が民主党京都府連の会合で「日本共産党に協力を依頼するか、一切交渉せず独自に戦うか」と補選の対応を問うと、全地方議員が「交渉せず」を支持したという。前原氏自身も、日本共産党との選挙協力は「絶対に受け入れられない」との立場だ。岡田代表が日本共産党との連携を進めているのに対し、前原氏は「日本共産党はシロアリ。(協力すれば党の)土台が崩れる」と言い放ったこともある。これには、日本共産党も「大変残念」(志位委員長)と不満顔だ。地元党員は、「野党共闘の北海道5区は勝利し、拒否した京都3区で苦戦すれば、日本共産党の力が必要なことが浮き彫りになる」と突き放す。

前原氏ら民進党の保守系には“日本共産党アレルギー”が根強い。結党大会を4日後に控えた先月23日、岡田氏から代表代行への横滑りを打診された細野豪志政調会長(当時)の対応も素っ気無かった。「現場で頑張りたいので、お断りします」。岡田氏は翌日も“副代表”を打診してきたが、細野氏は首を縦に振らなかった。細野氏が岡田執行部からの離脱を決めた背景には、左傾化への不満がある。安全保障関連法の国会審議では対案の提出を進言したが、岡田氏は野党共闘や党内融和を優先し、聞き入れなかった。安保関連法反対のデモを展開する学生団体『SEALDs』の関係者が結党大会に来賓として招かれると、細野氏は「党が左に寄ってきた」と周囲に漏らした。ただ、民進党には単独で自民党に対抗できる力は無い。参院選で着々と進む野党共闘の流れに、保守系議員も抗し切れずにいる。中には、「日本共産党が支援してくれるなら拒む必要はない」「日本共産党と距離を置くふりをして、水面下で上手く連携すればいい」といった声すらある。泉氏は今月2日の京都市内での演説で、「党派の柵を超え、皆さんと共に前進していきたい」と幅広い支持を訴えた。党内対立による混乱で政権の座から追われた民主党時代の苦い経験も、保守系議員の動きを鈍らせている。閣僚経験者の1人は、「皆が不満を言い出すと収拾がつかなくなる。参院選が終わるまでは民進党を壊さないことが最優先だ」と手綱を締める。忸怩たる思いを抱えながらも、民進党の保守系は沈黙を保っている。


≡読売新聞 2016年4月5日付掲載≡




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【偽善の逆襲】(09) “偽善”と“偽アホ”のデスマッチ

今の日本はインターネットという共通の足場の下、偽善を嫌う心情が支配している。その心情の故郷が橋下徹を生んだ大阪だとするならば? これは一大事だ! (コラムニスト 小田嶋隆)

20160415 05
2015年末に放送された民放のバラエティー番組を巡って、インターネット上でちょっとした騒動があった。以下、紹介する。騒ぎの発端になったのは、12月29日の夜にTBSテレビ系列で放送された『ぶっこみジャパニーズ』という番組だ。これは、「和のカリスマが海外の“ニセジャパン”を成敗する! 正しい日本文化を伝授する“ぶっこみジャパニーズ”」と自らのホームページで紹介している通り、海外に蔓延する正統的でない日本料理や間違った日本文化を摘発し、日本の“達人”が現地に出向いてその誤りを正し、“成敗”するという設定の番組で、今回の放送分を含めて、これまでにスペシャル番組枠で5回放送されている。インターネット上での炎上を招いたのは、日本のラーメンのカリスマがスコットランドのエジンバラに飛んで、当地のラーメン店で顧客に供されているけしからぬラーメンを“成敗”するという筋立てのVTR部分だ。炎上理由は、当該のスコットランドのラーメン店が自身のフェイスブック上で、当日“成敗”の対象となったとんこつブレックファストラーメンが、普段客に提供されているメニューではなく、番組の演出に協力してディレクターの指示を参考に作られた特別メニューだった旨を暴露したからだ。尤も、フェイスブックの記述は公開後、日本で騒ぎが大きくなったことを受けて、現在は削除されている。てな訳で、コトの真偽は最終的にははっきりしない。とは言え、消えてしまったエジンバラのラーメン店のフェイスブックの記述を一応鵜呑みにするなら、番組は実在しないラーメンを“成敗”していた訳で、とすれば、少なくともこの部分に関して、『ぶっこみジャパニーズ』は“ヤラセ”だったことになる。

当稿の目的は、テレビ番組のヤラセを告発して成敗するところにはない。ヤラセに関しては、然るべき人間がきちんとした取材と検証をしないと確定的なことは言えない。私が原稿の冒頭にこの話題を持ってきたのは、本題に入る前に、この騒動の中で端的に表現されている昨今のテレビの勘違いと、『ぶっこみジャパニーズ』という番組タイトルが醸している“気分”を先ず知ってほしいと考えたからだ。私は随分以前から、“ぶっこみ”“ぶっちゃけ”“ぶち切れ”といった“本音を曝け出す”系の用語並びに演出手法が、ゴールデンタイムのバラエティー番組の現場を席巻している感じを抱いている。念の為に、“ぶっこみ”という言葉について解説しておく。これは多分、ここ5年ほどの間にトーク番組の中で使われるようになった言葉だ。大まかなニュアンスとしては、「唐突に厄介な話題を持ち出す」「空気を読まずに話を変える」「人の嫌がるカテゴリーに踏み込む」くらいな意味の用語として使われる。トーク番組の司会者が出演タレントに向けて、リアクションに窮するタイプのプライべートのエピソードをいきなり振ったり、ひな壇芸人が場の空気に沿ったトークを展開しているところに、ゲストの女性歌手辺りが突然、ギャラや取っ払い営業についてのリアルな質問を投げかけてきたような場面に、「おお、ぶっこんできたなぁ」と応じるのが定番の展開だ。何というのか、この“お約束とは違うハプニング感”が、スタジオの生の緊張感を伝えている意味で珍重されている訳です。今回のケースでは、タイトルで“ぶっこみ”と無作為を謳っていながら、その実、作為的な演出を仕組んでいたことになるのだが、それはまた別の話だ。ここでは論評しない。ともあれ、確信的なヤラセが介在していたのかどうかは措いて、過剰な演出の下で“成敗”の物語が展開されたことは事実だ。こういうものを見ていると、21世紀のテレビ制作現場を支配しにかかっている“本音”なり“ぶっちゃけ”みたいなもののマイナスの規範力に、改めて脅威を感じる。遡れば、現在、こうしてある“本音”の時代の背後には、長い“建前”の時代があった。というよりも抑々、“ぶっちゃけ”“ぶっこみ”“ぶち切れ”が齎す破壊力が若い人たちを魅了するようになったのは、戦後以来長らく続いた“人権”と“平和”と“思いやり”と“寛容さ”を標榜する進歩時代の空気が、それを上から押し付けられる立場にある学校の生徒にとって、如何にも偽善的に感じられたからなのであって、してみると、私のような年配の男の目に“露悪”“中二病”“理由なき反抗2.0”くらいに見えている“ぶっちゃけ”“ぶっこみ”“ぶち切れ”は、それらの気分をべースに処世の諸事に立ち向かっている当のヤング諸君自身からしてみると、単純に“正義”であるのかもしれない。

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ジャンル : 政治・経済

【政治の現場・野党融合】(03) 日本共産党の魅力、民進侵食

20160414 01
参院選での野党共闘を目指し、日本共産党が候補者を取り下げた改選定数1の全国10選挙区では、民進・共産両党の協力態勢が鮮明になりつつある。その1ヵ所である長野選挙区。先月20日、長野市内のホテルで開かれた民主(当時)・共産・社民3党等の集会では、民進党新人で元TBSニュースキャスターの杉尾秀哉氏と、長野選挙区から比例選に回った日本共産党新人の唐沢千晶氏が壇上に並び立った。唐沢氏は「杉尾さんが入っていけないような所に行き、杉尾さんになり代わって票をかき集めるのが私の仕事だ」と挨拶。杉尾氏が“戦争法廃止”と書かれたプラカードを手に、唐沢氏らと共にシュプレヒコールを上げると、会場は拍手に包まれた。“戦争法”とは、日本共産党による『安全保障関連法』の呼び方だ。日本共産党が民進党候補を支援する条件としているのが、各地で具体的な政策協定を結ぶことだ。民主・維新・共産・社民・生活の野党5党が2月19日、参院選での協力の為に一致した政策合意には、“安全保障関連法の廃止”と“集団的自衛権行使の閣議決定撤回”しか書かれていない。だが、日本共産党中央委員会は地方組織に対し、現場では幅広い政策協定を結ぶよう指示している。長野の民主・共産の協定には、「政策的一致が広げられるよう努力」との文言が盛り込まれた。宮城県では、先月初めに民主党県連と日本共産党県委員会が結んだ協定に、“沖縄・アメリカ軍辺野古新基地建設に反対”“不公平税制の抜本是正”等が明記された。この協定と引き換えに民進党公認の現職・桜井充氏は、日本共産党の推薦を得た。

20160414 02
民進党幹部は「幅広い政策合意は、将来の“民共連立”を有権者にイメージさせてしまう」と警戒しているが、桜井氏の周辺からは「共産票は大きな魅力だ。“1強自民”と戦うのだから、背に腹は代えられない」との声が漏れる。日本共産党幹部は、「“宮城モデル”を全国に広げたい」としている。日本共産党は昨年9月、『国民連合政府』構想を発表。安保関連法の廃止を柱とし、党綱領にある“天皇制廃止”や“日米安全保障条約の破棄”等は盛り込まなかった。現実路線で野党を糾合し、政権を奪取しようという戦略だ。共産票を梃子にした野党共闘の舞台裏には、『生活の党』の小沢共同代表がいる。天皇陛下がお言葉を述べられる通常国会の開会式に、日本共産党の志位委員長が今年初めて出席したのは、小沢氏が勧めた影響もあるとされる。小沢氏は周辺に、「選挙の票は“共産アレルギー”で減るマイナスより、プラスのほうが大きい」と語っている。日本共産党が協定を結ぶ際に重視しているフレーズが、“立憲主義の回復”だ。「この言葉が政策協定に入れば、教育・雇用・社会保障等、全ての政策テーマに当て嵌まり、連立入りの大義名分になる」(党幹部)という訳だ。“宮城モデル”には“回復”は明記されなかったが、立憲主義は盛り込まれた。民進党幹部は、日本共産党との連立を「あり得ない話」と一笑に付す。しかし、共産票欲しさに民進の現場は侵食され始めている。夏の参院選の帰趨が、将来の“民共連立”を生む可能性を否定はできない。


≡読売新聞 2016年4月2日付掲載≡

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【昭和史大論争】(11) 世界文化遺産にも反対…韓国歴史アタックに備えよ

20160413 01
『明治日本の産業革命遺産』の世界文化遺産への登録が決まった。『国際記念物遺跡会議(イコモス)』による登録勧告から決定までの2ヵ月間に繰り広げられた韓国との攻防は、深刻な相互不信に陥った日韓関係の現状を象徴するものだった。先ずは、何が起きたのかを振り返ってみたい。ユネスコの諮問機関であるイコモスが2015年5月4日、世界文化遺産への登録を勧告した。通常はこれで事実上の登録決定となるが、今回は違った。「第2次世界大戦末期に朝鮮人徴用工が働かされた施設7ヵ所が含まれる」として、韓国が反対を表明したのだ。最終的に登録を決めるのは、日韓を含む21ヵ国が委員となっている世界遺産委員会。6月末に始まる委員会に向け、日韓両国が激しいロビー合戦を繰り広げた。日韓は、6月21日の外相会談で一旦は“登録に向けた協力”で合意するものの、「詰めが甘かった」(首相周辺)為に土壇場で再び対立が表面化。委員会での審議が当初予定から1日遅れとなる難産となり、7月5日に何とか全会一致での採択にこぎつけた。日本は当初、韓国側主張を「時代が違う」と一蹴した。「世界遺産登録の対象は“1850年代から1910年”であるのに、徴用工は1940年代の話だ」という理屈だ。内閣府の石破茂特命担当大臣は5月8日の記者会見で、1910年について「ロンドンにおいて日英博覧会というものが開催をされ、そこにおいて日本の新しい産業の発展が1つの区切りということになったもの」だと主張した。だが、中学校の歴史教科書にも出てこない日英博覧会を区切りとすることに、異論を強引に押し切るほどの説得力を持たせることは難しい。しかも、イコモスの勧告には「各施設の歴史全体を理解できるよう」求める項目が入っていた。全会一致の決定が通例であることも、日本には重荷だった。規定では、投票を求めることも可能で、3分の2以上が賛成すれば登録が決まることになっている。だが、対立の表面化を嫌う偽証国が来年の会議に審議を先送りする可能性もあった。「和を以て貴しとなす」というのは、日本特有の考えではない。国際会議の場でも無用な対立は嫌われる。先送りになった場合、日本は2015年で委員国の任期が終わるのに、韓国は2016年も委員国に残るという事情もあった。冷静に考えてみれば、日本にとって不利な条件が揃っていた。外相会談での決着に安堵したのは日本のほうだろう。

状況が再び暗転したのは、韓国が登録決定後の発言として準備した草稿に“強制労働(forced labor)”という言葉が入っていたからだった。議事録にしか残らない意見陳述だが、国内世論向けに強い姿勢を見せておこうとしたようだ。韓国がその通りに発言しても登録自体に支障がでる訳ではなかったが、日本側は、日韓外相会談の時点で“強制労働”という言葉を使わないことに合意したと理解していたから強く反発した。国民徴用令に基づく徴用は違法な“強制労働”に当たらないという日本政府の立場からは受け入れられない表現だった。韓国で元徴用工が起こしている訴訟に悪影響を与えることも懸念された。ところが、韓国側の説明は全く異なる。韓国政府当局者は「外相会談の時点で問題となっていたのは、日本がどういう発言をするかだった。日本は外相会談で“forced to work”という表現を使うと伝えてきたので、韓国は登録に協力することにした。韓国側の発言をどうするかなんて話は無かったけれど、日本側は『韓国も同じ表現を使う』と理解したようだ」と話す。結局、外相会談での合意について日韓の理解が異なっていたのだ。韓国は最終的に、“強制労働”という言葉を草稿から削除することに同意し、問題は決着した。日本政府代表の佐藤地ユネスコ大使が採択後に読み上げた英文の声明には、「1940年代に幾つかの施設において、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた(forced to work)多くの朝鮮半島出身者等がいた」という内容が入った。韓国外務省は、「韓国人たちが本人の意思に反して動員され、過酷な条件下で強制的に労役したという厳然たる歴史的事実を日本が事実上初めて言及」したと評価する報道資料を発表した。韓国外務省は“強制労働”という言葉を避けたものの、一部の韓国メディアは「強制労働を日本が初めて認めた」と報じた。一方で、岸田文雄外相ら日本側は「強制労働を意味するものではない」と説明した為、今度は韓国メディアが「誤魔化そうとしている」と反発。日本国内でも“forced to work”という表現を問題視する声が出て、日本政府は釈明に追われた。日本の世論が最も混乱したのは、“強制労働(forced labor)”と“働かされた(forced to work)”の違いだろう。一般的な感覚で言えば、どちらも“働くことを強いられた”という点で変わらないからだ。

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テーマ : 韓国について
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